以前は、準大手の電機メーカーでエンジニアをしておりました。今はやりの言葉でいう、Japanese Traditional Company(JTC)の定義がまさにそのものという会社で、非常に無駄が多く、機動性もなく、イノベーションを起こそうものなら出る杭は打たれるごとく、叩かれる社内ルールが徹底され、閉鎖的な状況になっていました。今現在は転職し、デスクトップステーションの経営の傍ら、生活していかなくてはなりませんので、ほぼ外資系のメーカーでエンジニアとして二足の草鞋を履いております。この外資系メーカーが、あまりにもJTCとはかけ離れた環境になっているので、仕事もしやすく成果も出やすい状況です。意味もなく重圧を掛けられるようなストレスもなく、安定して仕事をしています。
以前の会社 | 今の会社 | |
上司 | 日本人のみ、年功序列。 | 直属は日本人だが、2つ上から外国人 事業部長や役員はほぼほぼ外国人 |
社内公用語 | 日本語 | 日本語と英語。特に規定はない。ただし社内資料は半分英語なので、読み書きは必須 (円滑にしゃべれない人は多い。自分もそうですが) |
給料 | 簡単に上がらない、昇進試験あり。試験が難易度高、主任級で諦める人多数 | 昇進試験なし、成果主義。仕事の役割に応じて決まる。 部下や後輩の世話もちゃんと評価にカウントされる。 |
ボーナス | あるけどそんなに変わらない | 変動が激しい。景気がいい時は凄いが、悪い時は0円。 |
経営陣の情報共有 | 校長先生のような演説のみ、中身が無い。 | 社内動画共有サイトで季節ごとに社長や役員が1時間ほど、会社方針、会社をどう成長させたいかの具体的な流れ、今の最新の業界動向、社内の働き方改革などを社員に伝える。社員からのコメントにも答える。 |
社内ルール | どんどん増える | どんどん消える(使わない古いルールは削除という方針) |
予算獲得 | 課長、部長、事業副部長、事業部長に説明して(約1か月)、OKが出たら、予算管理の事業部長にプレゼンして、たいていダメなので、作り直して再説明してようやく予算獲得(合計2か月) | 部長に開発予算権限が事業部長から委譲されており、課長と部長に説明するだけ。基本的にNOとは言われない。 |
週報,月報等の進捗報告 | 週報、月報、四半期報告(専用の複雑なエクセルシート)のほかに、開発完了報告が別々に用意されている | 週報のみ。課長・部長にメール本文で3行くらいで説明。その内容から、部長は外国の事業部長にパワポ1枚にまとめて毎週提出するだけ。開発完了報告はあるが、部長と事業部長代理の日本人に説明するだけ。 |
一番違うのは、「仕事のための仕事が非常に少ない」ということでしょう。エンジニアが本当にやらなければならないのは、上司への説明ではなく、お客さんにモノを売るための製品や技術を開発する事です。つまりは、複雑な合議制に原因があると考えます。特に、予算が限られている場合は、この合議のハンコの数も増えて、より長い時間、予算獲得のためだけに無駄な労力が消費されます。イノベーションの芽も、課長~事業部長のどこかで確実に摘まれてしまうことでしょう。
経営陣が考えることは、素早く予算を短時間で投入し、さらに余計な口や報告は極力控え、簡単な進捗報告のみで我慢し、開発スピードを加速させることです。実際のところ、サラリーマン経営者や中間管理職はそんなことはできないので、報告を要求し、開発スピードをどんどん下げる足の引っ張りを社内で繰り広げることは、この何十年と繰り返されてきたことです。何も変わっておりません。
外資系の凄いところは、予算執行の権利や監督も含めセットで下に委譲してしまうことです。技術開発のスピードを何よりも重視しているということを感じます。そういうと、仕事が大変と思うかもしれませんが、全くそんなことはございません。無駄なパワポ資料を全くつくらなくなった&無駄な説明時間もなくなったので、開発時間がたっぷりと取れて、試行錯誤やトラブル対応も含め、開発に余裕をもって進めることができます。
そう、日本のメーカーの弱体化は、まさに社内で無駄業務の大量生産をし続けてきたことにあると思います。これに気づいて、いち早く凝り固まった古臭く、効率が非常に悪い開発業務フローを破壊してリセットする会社が成長路線に再び乗ることができると思いますが、伝統を重視(=今までの経験が使えなくなるのが怖い)して、たぶん、そのようなことは起きないかもしれません。
となると、JTCのうち、シェアを取れていない中途半端な会社は今後、売上規模をどんどん縮小してしまい、倒産・切り売りの道を全力で走りぬくことになるのかもしれません。